カンボディアでの注意事項

1.治安

    カンボディアの治安状態は、東南アジア諸国の中でも最悪と言ってよい状態が続いています。同地に滞在、生活するうえで、自己規制による日常の安全確保が絶対かつ唯一我が身を守る手段であることを知る必要があります。同地の経済活動は、今後外貨の流入促進等により拡大好調化すると予想されますが、基本的な社会資本・基盤は依然として整備されておらず、都市部、地方を問わず所得格差が拡大する傾向にあります。また、同地の犯罪傾向を分析すると、犯罪の軽重を問わず、けん銃等の銃器が凶器として使用されていることが極めて特徴的傾向と言えます。
    今までにも、日本人であることを理由に犯罪の対象となった事件が幾つか発生しており、長期滞在者を対象とした刃物を使用した強盗傷害事件(腹部を刺されて重症)、ホテル自室内における、けん銃使用による緊縛強盗事件(事業資金数万ドルを強奪)、店舗閉店直後における、けん銃を使用した緊縛強盗事件(従業員給与数万ドルを強奪)、旅行者が被害者となった、けん銃使用による路上強盗事件(腹部を撃たれて重症)等の他、旅行者や長期滞在者が被害者となった事件が多く発生しており、日常における不断の注意と警戒が必要であると言えます。
    また、同地の政治的不安定要因が、都市型テロに結びつく危険性も払拭できず、現にプノンペン市内の中心部において、野党主催によるデモの集団に対して、複数の手榴弾が投擲され、死傷者多数が発生する政治テロ(1997年3月)が起こる等、自己に対する直接的な犯罪だけを考慮するのではなく、通常の市内通行においても、事前の情報の収集と、民衆のい集場所の回避等の臨機応変な措置と行動が必要となることも認識しておく必要があります。同地で頻繁に発生している一般的な犯罪の態様と、その具体的な対策は以下のとおりです。

    (1)路上強盗事件

      市内の路上において凶器を用いて被害者を脅し、金品を強奪する犯罪です。同地では最も頻繁に発生している犯罪で、特に夜間において徒歩通行、単車タクシーを利用している場合の被害発生が顕著です。

      (イ)日没後の発生が多い

        路上強盗事件の発生は、圧倒的に日没後に集中しています。但し、ワット・プノン周辺から王宮前広場にかけては、日中における事件発生も多くあるので要注意です。

      (ロ)けん銃等の凶器を使用している

        犯人は必ずけん銃等の銃器を所持しています。銃器はそもそも人を確実に殺傷するために造られた道具です。一度弾丸が発射されれば、身体や生命に大きな危害が及ぶことは避けられません。不幸にもこの種犯罪に遭遇した場合は、後述の犯罪遭遇時の対処方策を参考にして、どんなことがあっても抵抗したり、抵抗する素振りを見せないようにする注意が必要です。

      (ハ)単車に乗った複数の犯人が敢行している

        犯人は殆どの場合が複数(2人以上)で、単車に同乗したり、複数の単車に分乗して、それぞれが事前に決めた任務分担や手順のとおり犯行に及んでいます。比較的多い事例として、2台の単車に4名の犯人が分乗している場合、1台が進路を塞ぎ、後部座席に乗った凶器を持った犯人が被害者を脅し、もう1台は後方の退避路を塞いで後部座席に乗った犯人が被害者のポケット等から金品を強取しています。それぞれの運転担当は、周辺の見張りと、犯行後直ちに現場から逃走するために、単車のエンジンをかけたまま待機しています。また、犯行後、それぞれ別方向に逃走する等、周到に計画していることが明らかです。

      (ニ)幹線道路の暗がりや裏道(暗い道)へ入った直後

        犯行の多くは幹線道路から横道や、裏道(暗い道)に入った直後、あるいはこれら枝道の特に暗い場所で行われています。しかし、モニボン通り等の幹線道路であっても、ちょっとした建物の暗がり(閉店後の店舗前)等で事件が起こっていることもあり、夜間の移動に際しては、徒歩、シクロ、単車共に控えたほうが無難と言えます。

      (ホ)現場付近で待ち受けているか、尾行している

        今までの事件の全ては、ある場所から犯行現場まで単車で尾行され、上記(ニ)のような犯行に都合のよい場所に至って即座に敢行するか、事前に犯行に都合のよい場所付近で、網にかかる獲物を待ち受けるが如く潜んでいるかのどちらかです。夜間の移動に際しては周辺の通行車両等にも十分に気を配る必要がありますが、先ずは不要の外出を控えることが賢明です。

    (2)車両強盗事件

      同地の車両強盗の多くは、乗降の際に凶器(けん銃や自動小銃)を突きつけて、鍵と車両を強奪する方法が一般的ですが、まれに走行中の車両に対してけん銃等を発車して強引に停止を求め、車両を強奪する犯罪も発生しており、現に邦人の被害も報告されています。

      (イ)車両の乗降は安全な閉鎖場所で行う

        車両強盗で最も多いのが、自宅や建物の敷地内へ入るために扉を開けようと一旦車両を降りた際に襲われたり、扉が開くのを待っている間に襲われるという事例です。敷地内へはできるだけ一旦停止せずに入るように心がけ、事前に準備をしておく必要があります。

      (ロ)乗車中のドアロックの励行

        走行中は、必ず常にドアロックを掛けるように心がける必要があります。また、窓ガラスは常時閉めておくことが原則です。

      (ハ)不用意に車両を停車しない、不用意な場所に駐停車しない

        人が近づいてきても、不用意に車両を停車させないで、やり過ごす等の配意が必要です。また、人が集まっている場所等では絶対に車両を停車させることなく通過する方が無難です。停車中に見知らぬ者が近づいてきた場合は、その者をやり過ごすか、まっすぐ車両に近づいて来る場合は、直ちに車両を移動すべきです。また、駐車する場合は、夜間は必ず街灯等の照明のある明るい場所を選び、できるだけ専属の駐車場案内人やガードマンが常駐している場所を選ぶようにするべきです。

      (ニ)車両付近の人の動きに注意する

        特に車両から降りる際、また、乗車する際には、周辺(車両の前後左右少なくとも約30メートル以内)の人の集まりや動きに注意して下さい。不審な者(こちらへ近づいてきたり、様子を窺っている者)がいる場合は、車両から降りることなく、そのまま車を走らせてその場から離れる必要があります。また、乗車する際に不審者を見つけた場合は、一旦建物内等に戻り、不審者を躱すか、様子を見て応援の人を呼ぶようにした方が安全です。

      (ホ)危険予知のための行動

        駐停車していた車両に戻り乗車する場合は、まっすぐ運転席に直行せず、車の周囲を回って異常がないかを確認したり、車両の底部に不審物が仕掛けられていないか確認する配意が必要な場合もありますが、夜間は余りウロウロせずに、早めに車を発進させた方が無難な場合が多いと思われます。運転手を雇用している場合は、駐車中は車両付近から絶対に離れないように指導して下さい。また、軍や警察の検問に遭遇した場合は、絶対に無視したり速度を上げて通過しようとはしないで下さい。逃走を図ると判断され、直ちに射撃される可能性があります。必ず停車して、彼らの言い分を聞き、身分証明書、免許証を呈示して下さい。但し、その場合でも、窓は大きく開けずに、証明書等を差し出すことができるだけの隙間を開けて対応したほうがよいと思われます。殆どの場合は、多少の交通違反があってもその場で金銭を要求されるだけで済みますが、時には法外な額を要求されたり、それに応じないと違反にかこつけて警察署へ連行しようとする場合ばあります。同地の警察官に倫理を説いても何の役にも立ちませんから、その場合は相手の納得する金額をその場で払うか、応援を呼んだ方がよいでしょう。

    (3)ひったくり

      同地のひったくりの多くは、単車に乗車した犯人(一人若しくは複数)が、通行中の歩行者の所持品を通過時にひったくったり、自転車の荷物篭の品物を追い抜きざまにひったくる犯罪が報告されています。できるだけ手荷物やバッグ類を持たない方がよいでしょう。

      (イ)手荷物はできるだけ持たない

        可能な限り両手をフリーにしておくべきです。また、ショルダーバッグや肩掛ポーチ等は肩掛用のストラッブをたすき掛けにして、更に緩みのないようにして、必ずバッグに片手を添えておく配意が必要です。

      (ロ)歩道を歩く際の注意

        歩道を通行する際は、余り車道寄りを歩かないようにしたり、人と待ち合わせする場合でも、一方方向だけに気を取られずに、反対方向にも十分注意する等のきめ細かい配意が必要となる場合もあります。同地では車両の車線逆行は一般的です。

    (4)掏摸(スリ)

      プサー・トゥマイ(中央市場)やロシアン・マーケット(プサー・トゥールトンポー)等の人の混み合う場所、また、水祭りの際の王宮前等の人が多く集まる場所には、必ず複数のスリが居ます。特に多いのが「巾着切り」と呼ばれている、鋭利な刃物でバッグ等を切り裂き、内部の金品を窃取する犯罪です。

      (イ)長時間人込みの中に居ない

        スリ犯人は必ずと言ってよい程、それぞれの縄張を持っています。長時間人込みの中に身を置くことは、それだけ犯人の注目を誘い、犯行の機会を与えることになります。

      (ロ)周囲の人の動きや動作に注意する

        同地のスリの動きを観察すると、殆どの場合、一旦対象者の横に近づき、所持品のバッグ等を外側から軽く手で触って内容物の形態を確認すると共に、対象者の所持品に対する注意の程度を確認してから、再度近づいて人込みに押された素振りをしながら犯行に及んでいます。自分の周辺や直近の者の動きや動作、視線に注意して、僅かでも不審に思える行動等をとる者が居た場合は、一旦立ち止まり(不審行動に気がついたことを示し)直ちにその場を離れる方が無難です。

      (ハ)バッグ等の携帯品はできるだけ持たない

        上部が開放されているトート・サックやショルダー・バッグ、体に密着していて一見安全そうに思えるウエスト・ポーチはスリから見ると格好の獲物です。人込みの中では、特に肩から提げるバッグやウエスト・ポーチは体の前面で、片手あるいは両手を添えて保持するように心がける必要があります。また、極めて基本的なことですが、開閉部分が開いていないか、チャック等の状態を絶えず注意する配意が必要です。

    (5)屋内侵入犯罪

      (イ)防犯設備の強化
        屋内への侵入犯罪を防止・阻止するには、家屋全体の防犯設備を強化することが最も重要かつ有効なことです。同地の住宅は防犯的な観点から見れば十分な措置が施されている建物は極めて少ないことから、入居契約の前に防犯の専門家による点検、助言を受けて、必要な防犯措置を講じた後でなければ契約できないことを大家に伝え、必ず確実な防犯設備が完備されたことを確認してから契約して入居するようにする必要があります。

      (ロ)訪問者に対する注意

        訪問者があった場合、直ちに門扉を開けて招き入れることは極めて危険です。必ず用件、身分等を確認して判断するべきです。特に公務員を名乗り、各種調査等を装って扉を開けさそうとする事例も多く報告されています。

      (ハ)使用人に対する注意

        同地においては、使用人が犯人と結託して犯行に関わっていると思われる事件も多く発生しています。使用人を雇用する場合は、月給額や言語能力以上に、その者の信用性を重視して選定すべきです。例えば、家の大家の近い親戚を紹介してもらう等の信用できる人からの紹介を受ける方がよいのではないかと思います。また、使用人には、家族同様の十分な安全対策に関する心得を指導しておく必要があります。

(6)犯罪遭遇時の対処方策

    不幸にも犯罪に遭遇し被害者となった場合は、以下の対処要領を念頭に、何よりも人的な被害を最小限に止めることに努めるべきです。

    (イ)強盗等の凶器を使用した犯罪被害遭遇時

      (a)絶対に抵抗しない
        相手の持っているけん銃等の凶器は全て本物です。相手は抵抗したり、抵抗する素振りを感じただけでけん銃等の銃器を発射する恐れがあります。相手の望むものは、あなたの持ち物で、命ではないはずです。たとえ武道等の心得があったとしても、決して抵抗したり大声を出したり、その場から走りだしたりしないで方が賢明です。

      (b)両手を挙げて動かない

        相手に抵抗する意志がないことを明確に伝えるために、両手を高く挙げて動かない方が無難です。その際に、中途半端に両手を挙げるのではなく、両肘を肩より高く挙げ、手のひらを開いてまっすぐに上に伸ばして下さい。

      (c)犯行後、追跡しない

        犯行が終わって、被害品を奪還するため、あるいは犯人を捕まえるために追跡することは自殺行為です。犯人は更に逆上して銃器を発砲する恐れがあります。

    (ロ)銃器の発砲事件等に遭遇した場合

      (a)直ちにその場に伏せる
        身近で銃器の発砲があった場合は、どんな場合であっても躊躇することなくその場に伏せて横になって下さい。たとえその場が泥道であっても、しゃがみ込むだけでは不十分なばかりか、逆に標的となる可能性があります。体をできるだけ低い状態に保つように、できれば地面の凹みや遮蔽物の陰に身を伏せるようにして下さい。

      (b)不用意に動かない

        銃声が近くできこえるからといって、不安に駆られて走り出すことは極めて危険です。また、仮に無抵抗で無関係な第三者であることを明示したとしても、相手がそれを理解してくれるかどうかは判りません。撃ち合いになった場合、動くものは全て標的と見做されます。周りの状況をよく見て、自分が真っ先に動くことのないようにして下さい。


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